適切な引用ってどうすりゃいいの?

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これはdesigning plus nine Advent Calendar 2018 15日目の記事です。

こんにちは。最近NVIDIA® GeForce RTXTM 2070を買って金欠なdesigning plus nineのエアバス (@airbus_P)です。
ご存知の方も多いかもしれませんが僕は知的財産権、特に著作権に興味があります。今回デザインサークルのアドベントカレンダーを書くにあたり下手にデザインの事を書くとデザイン強者の皆様に刺されそうだったので、この記事では事前に質問を貰っていた引用の方法について書きます。(結構長いので見出し一覧を活用してください)

著作権の概要

みなさんご存知の通り、小説や歌、Webページに写真や絵といった制作物の多くには著作物として著作権法によりさまざまな権利が設定されています。
それらの権利は出版権や複製権のような経済的な利益を保護するための「著作権」や同一性保持権などの著作者の思い入れ(精神的利益)を保護する「著作者人格権」、さらに著作者本人では無いものの著作物の伝播・流通に関わる人(レコード会社や出演者、放送局など)を保護するための「著作隣接権」に分けられます。
(全部まとめて著作権と呼ばれてしまう事も多いですが)

著作物ってなんだ?

ここで注意しておきたいのが「著作物とは何か」という点です。
著作権法第2条1項1号には

著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(著作権法第2条1項1号)

とあります。この話だけで論文が書けてしまう上、学説上の争いも見られる問題のため細かく述べることは避けますが、これを大雑把に言えば
「人間の考えや気持ちを具体化した個性がある成果物で、文化的なものを”著作物”とする」
というふうになります。

たまに「この映画はあの小説のアイデアをパクっているから著作権侵害だ」というような意見を目にしますが、成果物の元にあるアイデア自体は著作物では無いので誤りと言えます。また「創作的」「個性がある」という点についての基準は低く、いわゆるテンプレのようなものでも無い限りは創作性が認められます。文化的なものという基準についても、プログラムやデータベースが著作物として認められるくらいなのでそこまで気にする必要はなさそうです。[1]

デザイン関連で言えば、「フォントのタイプフェイスは美術作品といえるくらいの独創性が無ければ著作物とは認められない」という趣旨の判例[2]は一度チェックしてみると面白いかもしれません。(ほんとか?)

著作物の引用

さてレポートやスライドを作っていると他の人による著作物を転載したくなることがよくあります。しかしその度に著作権者と連絡を取り、交渉して許可を得るのは大変です。そこで著作権法第32・48条では一定の条件下で他人の著作物を引用することを認めています。

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。(著作権法第32条1項)

次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条(略)の規定により著作物を複製する場合
二 (略)
三 第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合(略)において、その出所を明示する慣行があるとき。
2 前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
(著作権法第48条1・2項)

しかしこの条文では「公正な慣行」「引用の目的上正当な範囲」という抽象的な概念で条件が定められています。具体的にはどのような条件を満たせば引用を行う事ができるのでしょうか。
なお引用という行為自体の定義は著作権法内には見当たらないので、国語辞典にある人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること。(デジタル大辞泉・小学館)という定義を利用するのが良さそうです。

判例を読む

ここで具体的な引用の要件を探るため、判例をチェックしていきます。

パロディモンタージュ事件

まず最初に引用の要件を初めて判示したと思われる最判昭和55・3・28 民集34・3・244を見てみます。この事件は原告の著作物である写真の一部を被告が切り取り、他の写真と合成して一枚の合成写真を作った事に対し、原告が同一性保持権の侵害を主張したものです。

東京高裁では適法な引用にあたるとした上で同一性保持権の侵害を認めなかったのですが、(同一性保持権の侵害の判断に引用の適否は関係ないのに裁判所が引用の話をしてるのが不思議ではある)最高裁は引用が不適法であるとの判断を示しました。
このとき最高裁は著作権法で認められる引用の要件として、

  • 紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録する
  • 引用する側の著作物と、引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識できる
  • 引用する側の著作物が主、引用される側の著作物が従という関係にある

という三点を挙げています。
この要件はその後の判例にも用いられている重要なものですが、これだけでは「公正な慣行」や「引用の目的上正当な範囲」について分からないという問題があります。またこの三要件を著作権法の条文から読み取るのは難しそうです。

琉球朝日放送対シグロ事件

次にかなり最近の判例である東京地判平成30・2・21 事件番号平28(ワ)37339号を見ていきます。この事件は映画製作会社である被告がドキュメンタリー映画内でテレビ局である原告の著作物たるニュース映像を使用した事件です。
この裁判で東京地裁は

  • 著作物の利用行為が「引用」との語義から著しく外れるような態様でされている場合、例えば、利用する側の表現と利用される側の著作物とが渾然一体となって全く区別されず、それぞれ別の者により表現されたことを認識し得ないような場合などには、著作権法32条1項の適用を受け得ない
  • 引用が「公正な慣行」「引用の目的上正当な範囲」を満たすか判断する上では、その利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである

と示した上で、被告が映画内でニュース映像の著作権者である原告の名称を表示していない点から、映像の利用は「公正な慣行」に反しているとしました。
一点目では前掲パロディモンタージュ事件での要件を引き継いでいる一方、二点目を見ると必ずしも主従関係を見るわけでは無さそうです。

この判例はアメリカ合衆国におけるフェアユース制度にも触れていたりして面白いのですが、ここでは割愛します。

実際に引用するときはどうすればいい?

ここまで条文や判例から引用が許される要件を考えてみましたが、正直なところ何言ってるのか良くわからないという人が多いかと思います。これらを平易にまとめると

  • 引用の目的やその方法、引用される著作物の種類や著作権者への影響などを総合的・常識的に考えた時に、引用が合理的である
  • 引用してきた著作物と自分の著作物の区別がはっきりわかる
  • 引用してきた著作物の出所と著作者名を示す

という三点が満たされれば許諾なしに引用ができるということです。
これは著作権を制限する規定なので、もしも著作権者が転載などを禁止したとしても引用が可能です。しかし一方で著作者人格権は制限されていないので注意が必要です。
(例えば引用できるからと言って勝手に画像をトリミングすると同一性保持権、ペンネームではなく著作者の本名を表示すると氏名表示権の侵害の恐れがある)

具体的な引用方法

以上を踏まえて、実際に引用をするときにはどのように行えばよいのでしょうか。
まず一般に他の人による著作物を引用する際には

  • 引用符やインデントで引用箇所を明確にする
  • 前後の文や括弧や脚注で出典・著作者名を表示する

の二点を満たせば、適切といえるでしょう。
ただし出版社を通す場合にはその会社でのルールがある可能性もあります。また学術論文においては著作権とは関係なく引用・出典の表示が求められ(著作権が存在しない場合でも)その形式も各学会で定められている事が多いです。[3]
いずれのケースでも一度関係者に確認したり、ガイドラインを探すことをおすすめします。

例1
John Doeは『FooBar』の中で「適切な引用はリスク回避に有効だ」と指摘した。

例2(社会科学系論文でよく使われるAPA Style)
Doe(2020)は「適切な引用はリスク回避に有効だ」と指摘した。
(文献リスト) Doe, J. (2020). FooBar. Tokyo, Japan: HogeFuga Publishing, Inc.

例3(画像の場合)

this is sample image
引用元:"Sample image" (John Doe)

引用をHTMLでマークアップ

この記事はデザインサークルのアドベントカレンダー用に書いていることもあり、読者のみなさんはWebで他の人の著作物を引用することも多いと思います。その際にはHTMLで引用を示す必要があるわけです。
もちろん下記のように<i><em>を使って記述することもできます。

<!--このような記述は推奨しません-->
<p>Richard Roeは記事<i>『AbleBaker』</i>の中で<em>「今クールはゾンビランドサガに一番ハマった」</em>と述べている。</p>

Richard Roeは記事『AbleBaker』の中で「今クールはゾンビランドサガに一番ハマった」と述べている。

しかし引用に使うためのタグがあるのにそれらを使わないのは、semanticなコーディングとは言えません。ではどのようにマークアップするのが適切なのでしょうか?

HTML5では引用部分を表すタグとして<q>(短い文の場合),<blockquote>(長いセクションの場合)、作品のタイトルを表すタグとして<cite>があります。

短い文・句の行内での引用

まず短い文や句を行内で引用するとき。
このとき引用されるコンテンツは段落の一部(フレージングコンテンツ)なので<q>を用いるのが適切です。
また出典は<cite>で表示します。
ここで疑問に思うのが、著作者名の表し方です。タイトルと一緒に<cite>となっていることがよくあるのですが、著作者名はタイトルではないので問題がありそうです。 ここで有志が日本語訳しているWHATWG[4]HTML Living Standardを見てみるとcite要素の項目

cite要素は、作品のタイトルを表す。
人名は作品のタイトルではない(たとえ人々がその人を作品の一部とみなすとしても)したがって要素は人名をマークアップするために使用してはならない。
(引用者抜粋)

とあり、さらにそのすぐ下にあるq要素の項目では下のようなサンプルコードが示されています。
(W3Cをディスる文章なところが陰湿なオタクって感じ)

<p>The W3C page <cite>About W3C</cite> says the W3C's
mission is <q cite="https://www.w3.org/Consortium/">To lead the
World Wide Web to its full potential by developing protocols and
guidelines that ensure long-term growth for the Web</q>. I
disagree with this mission.</p>

この例に従うと著作者名は<q><cite>の外に置くことになりそうです。なお<q>には普通ブラウザ側で引用符をつけるため、引用部分にカギカッコなどをつける必要は普通ありません。また引用元へのハイパーリンクを付けることも一般的なことなどを考慮すると

<p>
    Richard Roeは記事
    <a href="http://blog.example.com/2018-12/AbleBaker"><cite>AbleBaker</cite></a>の中で
    <q cite="http://blog.example.com/2018-12/AbleBaker">今クールは<cite>ゾンビランドサガ</cite>に一番ハマった</q>
    と述べている。
</p>

Richard Roeは記事AbleBakerの中で 今クールはゾンビランドサガに一番ハマったと述べている。

こうするのが良いのではないでしょうか?

段落レベルでの引用

次に段落のように扱えるものを改行して引用するときを考えます。
このとき、引用される文章は<blockquote>で囲みます。また<cite>の使い方は変わりません。
ここで気になるのが、引用元や著作者名といった付帯情報は<blockquote>の中と外どちらに置くべきかという点です。短いフレーズに用いる<q>に対して段落に用いられる<blockquote>では複数の情報を入れる余地がありますが、引用文以外を含めて良いのでしょうか。

ここでも前掲のHTML Living Standardblockquote要素の項目を参照すると、引用に対する帰属は、もしあれば、blockquote要素の外側に配置しなければならない。とあります。
またサンプルコードも

<blockquote>
 <p>I contend that we are both atheists. I just believe in one fewer
 god than you do. When you understand why you dismiss all the other
 possible gods, you will understand why I dismiss yours.</p>
</blockquote>
<p>— Stephen Roberts</p>

となっています。なおここではblockquote要素の中でp要素が使われていますが、必ずしもp要素を使う必要はありません。

画像の引用

最後に画像を引用するときを考えます。
画像の引用についてはマークアップ方法が明示されているわけではないので、複数のタグを組み合わせていく必要がありそうです。
まず一般に引用画像は行内ではなく新たな行、もしくは段落として扱うので<blockquote>の中に入れる事が適切でしょう。
さらに引用した画像を自己完結した、本文から参照される図表として使う場合には<figure>を使うことが適切だと思われます。
また作品名や著作者といった付帯情報はここまでと同じくblockquote要素の外側に置くべきです。

これらを考慮し、他の人の著作物からグラフを引用する場合の例を考えてみました。

<p>1984年から1990年にかけてはイースタシアからの工作員の増加により、思考犯の検挙数は増加傾向にあった。(図表I)</p>
<figure>
    <blockquote>
        <img src="/images/dummy/200x200.png" alt="this is sample image" >
    </blockquote>
    <figcaption>
        図表I  引用元:<cite>XX白書</cite>. 真理省
    </figcaption>
</figure>

1984年から1990年にかけてはイースタシアからの工作員の増加により、思考犯の検挙数は増加傾向にあった。(図表I)

this is sample image
図表I 思考犯の年度別検挙件数(1984-2000) 引用元:XX白書. 真理省

このようなコーディングが適切ではないでしょうか(あまり自信がない)

まとめ

引用するときに満たすべき要件

  • 総合的・常識的に考えた時に、引用が合理的
  • 引用してきた著作物と自分の著作物の区別がはっきりわかる
  • 引用してきた著作物の出所と著作者名を示す

実際に引用するとき

  • 記号や枠線で引用だと明示する
  • 前後や注釈に出典を明示する
  • htmlの場合調べながら適切にコーディングする

以上を気をつけておけば、基本的に不正な引用となることは無いでしょう。(引用時にトリミングなどの加工を行うと同一性保持権の侵害にあたる可能性がある点には注意)

特にコンテンツ制作を行うデザイン職においては、知的財産権の侵害は仮に訴えられなかったとしても大きなリスクとなります。
権利者が黙認していたとしてもクライアントや消費者が気づいた場合、クリエイターとしての信用は大きく損なわれます。
今回は引用の方法のみを扱いましたが、著作権だけでなく商標権や特許権などの知識も自分の権利を守り、権利侵害を避けるために重要です。
ぜひ機会があれば自分でも調べてみてはいかがでしょうか。

脚注

注)本記事内における意見・論評・法解釈は著者の個人的な見解であり、資格を持つ法律実務家の助言に取って代わるものではありません。

[1] ただし実用性のある美術品(応用美術)では著作物性がなかなか認められない傾向にあります。(認められなかった例としてデザイナーズチェアや木目調の包装紙など)
[2] ゴナ書体事件 (最判平成12・9・7 民集54・7・2481) 「印刷用書体が著作権法二条一項一号にいう著作物に該当するためには、従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性及びそれ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない。」と判示した。
[3] 例として法学の論文だと「法律文献等の出典の表示方法」(平成26年) (法律編集者懇話会 特定非営利活動法人法教育支援センター)
[4] HTML関連の規格を定めている業界団体。AppleやMozila、Operaなどブラウザを作ってる人達が参加している。他にW3Cという団体も規格を決めているが所々食い違いがある。

参考文献

今回参考にしたWebページ。デザイナー向けのコラムなので正直僕が記事書く必要あったか?という感じもする。
Vol.103「著作権の引用と認められる場合」|JPDA -日本パッケージデザイン協会

こちらは教科書としては薄く、割と簡潔にまとまっていているので、興味がある人は読んでみると面白いかも。
知的財産法II 著作権法 (有斐閣ストゥディア) 駒田 泰土 (著), 潮海 久雄 (著), 山根 崇邦 (著)

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